■「またみんなと大きな一歩を踏み出すために、ゆっくり休んできます。戻ってきたときは最強になってるから、よろしくな!」(まふまふ)
まふまふが、6月11・12日、東京・東京ドームにて過去最大規模となる単独公演『ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2022@東京ドーム~「表/裏」』を開催した。
約3年ぶりとなるソロでの有観客ライブは、まふまふにとって、自身が歩んできた11年の足跡の集大成を見せるような、とてもドラマティックな場所だった。公演直前の6月5日には、病気療養のため、このライブを区切りに無期限のソロ活動休止期間に入ることも発表されていた。
振り返れば、2020年3月に開催予定だった東京ドーム公演は新型コロナウイルスの影響によって中止となり、2021年5月には40万人を超える同時視聴者を集めた東京ドーム史上初の全世界無料配信ライブも行った。今回の東京ドーム公演は、2年越しのリベンジを果たす念願の機会だった。そして、それが活動休止前のラストライブになったわけである。
6月11日は「表-OMOTE-」、12日は「裏-URA-」と銘打ち、それぞれ異なる楽曲と演出を披露した2日間。「明るく楽しい、ハッピーな曲をやろうと思ってます」とまふまふ自身が告げた初日はアッパーでキラキラした側面を、そして2日目はダークで切実な側面を軸にしたセットリスト。2日間で“陽”と“陰”の二面性を見せるような構成だ。
■6月11日公演
真っ白な衣装に身を包んで登場した1日目の幕開けは「神様の遺伝子」。巨大なLEDビジョンをバックに、レーザーが飛び交い、CO2ジェットがたちあがるド派手な演出とともに「輪廻転生」「ブレス」とハイテンションなナンバーを続ける。
「皆さん、こんにちは! まふまふです! おーい、みんな見えてるか!?」とオーディエンスに声をかけ、ドームを埋め尽くすペンライトの光を見渡したまふまふ。続けて披露したのは、このライブのために書き下ろしたという新曲「エグゼキューション」だ。張り裂けそうな思いの伝わってくる歌声も、壮大な情景を描く曲の終わり方も、とても鮮烈に胸に迫る。
この日の前半は『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』のために書き下ろした「携帯恋話」や、ドラマ主題歌の「ユウレイ」など、相手に焦がれる恋心を歌ったラブソングを続けて披露。夏祭りの情景を歌う「林檎花火とソーダの海」、朗らかなメロディの「快晴のバスに乗る」と、多彩な魅力を持つまふまふの快活でキラキラとした側面を見せていくようなセットだ。
三矢禅晃(Gu)、清水“カルロス”宥人(Gu)、白神真志朗(Ba)、宇都圭輝(Key)、新保恵大(Dr)という鉄壁のバンドメンバーによるインストゥルメンタルの演奏を経て、中盤は「曼珠沙華」からスタート。白黒の衣装に身を包みステージ奥から再び登場したまふまふが、双喜紋をデザインした映像を背後に、赤と白のペンライトが客席で揺れる中、中国語を交えた歌詞を華やかに歌う。そこから「動かざること山の如し」「あさきゆめみし」と、疾走感あふれる曲調と“和”のメロディを持った楽曲を立て続けにプレイしていく。
そして、この日最大のサプライズとなったのが、続く「1・2・3」だ。After the Rainの代表曲と言えるこの曲のイントロが流れ始めると、ユニットの相棒であるそらるがシークレットゲストとして登場。ドーム全体が歓喜に包まれるなか、そらるとまふまふのふたりがフロアの真ん中まで歌いながら花道を歩いていく。
「表のライブは明るく楽しい世界にしたくて。僕が楽しかったときっていつだろうって思ったら、そらるさんと一緒にいたときだったんです」と、そらるを招いた理由をまふまふが告げると、そらるは「まあね。でも、楽しい時ばかりじゃないけど、病めるときも健やかなるときも、一緒にやってきた」と応え、会場全体から大きな拍手がわきあがる。「ロックな曲、やりますか」と「ラクガキサマ」、「桜花ニ月夜ト袖シグレ」とAfter the Rainの楽曲を続けて披露し、ふたりの声が高揚感溢れる瞬間を作り上げる。
そらるが「最後まで頑張れ」とステージを降りたあと、まふまふは「久しぶりのライブで凄く不安だったんですけど、そらるに出ていただいて勇気づけられました。いつかまたふたりでみんなの前でライブする日が来たらいいなと思っていて。僕も少しずつ歩み出せるように頑張るので、今後ともよろしくお願いします」と声をかけ、思いを告げていた。
この日の終盤は、星空の映像を背景にセンチメンタルなメロディを切々と歌い上げた「水彩銀河のクロニクル」から爽やかな「君のくれたアステリズム」と続け、本編ラストは「夜空のクレヨン」。幻想的なムードにドームを包み、「ありがとう!」と笑顔で叫んでステージを降りた。
そしてアンコールでは、まふまふは“まふてる”型の巨大な気球に乗って登場。地上10数メートルの高さでドーム内をぐるりと回り、スタンド2階席、3階席の観客に手を振りながら、ハイテンションな「すーぱーぬこになれんかった」、キュートな歌声を響かせた「女の子になりたい」と続けて歌う。気球からステージに戻ったまふまふはひと言、「マジで怖かった!」と告げる。久しぶりの高所に足がすくんで途中からは座り込んでいたのだという。
最後のMCでは、まふまふは活動休止を発表したあとに、ミュージシャンを目指してきた高校の同級生や大学のクラスメイトからも連絡がきたと話す。「まふまふになってからの11年が僕のすべてだと思っていたけれど、30年間、つらかったこともあったけれど、ちゃんとつながってるんだなって思った」と感慨深い表情を見せ、「またみんなと大きな一歩を踏み出すために、ゆっくり休んできます。戻ってきたときは最強になってるから、よろしくな!」と力強く告げた。
「今日のライブは特に、楽しく終わろう!」と、アンコールのラストは「眠れる森のシンデレラ」。ペンライトの光が大きく揺れ、最後には全員でジャンプ。5万人がひとつになるような盛り上がりのなか、1日目のライブは幕を閉じた。
■6月12日公演
そして2日目の「裏-URA-」。今度は真っ黒な衣装に身を包み、長髪のスタイルにしたまふまふが、巨大な“生命維持装置”のオブジェとともに登場する。ライブは「サクリファイス」からスタート。「自壊プログラム」「立ち入り禁止」と、激しさと狂気性を併せ持つ楽曲を序盤から立て続けに披露し、「表-OMOTE-」とは対極的なムードを作り出す。
「僕の個人的に好きな曲たちはいつも暗いんです。僕の曲のなかには楽しいだけじゃなくて、つらいことを書いてきたこともたくさんあって。今回のコンセプトは、そういう気持ちを綴った曲がたくさん演奏されます」とMCでまふまふは語る。「音楽だからこそ、ライブだからこそ、つらい気持ち、苦しい気持ちを出していいと思う」「今日は思いっきり楽しんで、自分の感情を爆発させてください!」と呼びかける。
その言葉のとおり、この日に披露したのは、まふまふがたびたび綴ってきた生きづらさの感覚、疎外感や不全感をモチーフにした楽曲が軸となるセットリストだ。初日に続いて披露された「エグゼキューション」に続けて、「悔やむと書いてミライ」では片足をお立ち台に乗せて熱唱。静と動のコントラストを持つ「空腹」ではゾクッとするような歌声を響かせる。「夢のまた夢」では広いステージを移動しつつ歌い、「ひともどき」ではギターを掻き鳴らし、一時たりとも目が離せないパフォーマンスを繰り広げていく。
中盤では「まだまだ踊れるか!?」と客席を煽り、「ジグソーパズル」「ハローディストピア」と、アグレッシブな楽曲を畳み掛けるようにプレイ。ラウドで変幻自在なバンドサウンドに乗せて、高らかなハイトーンのボーカルを響かせる。さらに「忍びのすゝめ」では黒装束に身を包んだダンサーたちがアクロバティックな舞いを見せ、四つ打ちのビートにキャッチーなフレーズが飛び交う「イカサマダンス」では花道にずらりと並んだダンサーたちと共に歌い、ダイナミックなステージングを見せる。
「この景色が夢のよう。終わってしまうのが名残惜しい」と、歌い終わったまふまふは感無量の様子を見せる。終盤は「神様の遺伝子」に続けて、静と動のコントラストを持った「暗い微睡みの呼ぶ方へ」。マイクを力強く握りしめ、迫真の歌声を聴かせる。ヒリヒリとする悲痛な感情や終末感を爆発させるような熱唱だ。
そして本編ラストは『NHK紅白歌合戦』でも披露した「命に嫌われている。」。オープニングにも登場した巨大な“生命維持装置”のオブジェを背に、レーザーが飛び交うなか、全身の力を振り絞るような熱唱を見せる。ビジョンには「生きろ。」と大きく表示された映像が映し出され、感動的な余韻を残して本編は終わった。
アンコールでは、1日目と同じく“まふてる”気球に乗って「すーぱーぬこになれんかった」と「女の子になりたい」を歌ったまふまふ。ステージに戻り「みんな、本当に11年間ありがとうございました」と告げ、大きな拍手に包まれる。感極まった表情になりながら「今日は、泣かないんだ。楽しい思い出で終わらせよう」と語る。
そして、この日のサプライズは、「ずっとやりたかったことがあるんだ。みんな内緒にしてくれるかな?」と続いて披露した「CQCQ」だった。ロックバンド、神様、僕は気づいてしまったのヒット曲だ。まふまふ本人の強い思いによってこの曲がセットリストに加わったのは最終リハの前日だったという。念願だったという一曲を歌い上げ、まふまふは「常々『声が似てる』って言われてたから。“歌い手”だし、“歌ってみた”やりたいなって。誰か文句あるか、ないよな! これで、心置きなく眠れるぜ」と満足げな笑顔を見せる。
「僕のワガママに、今まで付き合ってくれてありがとう。またどこかで会おう!」と告げ、ラストは「輪廻転生」。全力を出し尽くすようなパフォーマンスを終えると特効の火花が爆ぜる。最後はバンドメンバーたちと一列に並び、マイクを使わずに「今まで本当に、ありがとうございました! いつか、また会おう!」と告げ、まふまふはステージを降りた。
まふまふは、この公演を区切りに、いったん無期限のソロ活動休止期間に入る。MCで特に印象的だったのは、両日とも、ミュージシャンを志していた高校生の頃の思い出を語っていたこと。単なるひとつのライブというだけでなく、まふまふというアーティストにとって、大きな意味合いを持ったこの2日間。きっと、ネットシーンから前人未到の歩みを経てきた「まふまふとしての11年」だけでなく、ミュージシャン人生全体のターニングポイントに立った大きな感慨を抱えていたのだろう。
そして、この場に集まった数万人の全員を「ここには仲間しかいない」と呼びかけて語っていたのも記憶に残った。何度も繰り返し、ファンへの感謝を告げていた。
圧巻のライブだった。きっと、集まった全員にとって、強く記憶に刻み込まれた時間になったはずだ。
なお、2年越しの東京ドームライブとなった初日の「表-OMOTE-」公演は6月18日より、2日目の「裏-URA-」公演は8月12日より国内・海外の配信サービスで放送されることが決定している。今回の東京ドーム公演に来れなかった人も、もう一度ライブの感動を味わいたい人も楽しむことができるので、詳しくは特設サイトをチェックしてみよう。
TEXT BY 柴那典
PHOTO BY 小松陽祐[ODD JOB] 、堀卓朗[ELENORE] 、加藤千絵 [CAPS] 、 岡部守郎、飯岡拓也 [Tenrich]
■『ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2022@東京ドーム~「表」』
2022年6月11日(土)東京・東京ドーム
<セットリスト>
01. 神様の遺伝子
02. 輪廻転生
03. ブレス
04. エグゼキューション
05. 携帯恋話
06. ユウレイ
07. 林檎花火とソーダの海
08. 快晴のバスに乗る
09. ひともどき
10. 栞
11. 曼珠沙華
12. 動かざること山の如し
13. あさきゆめみし
14. 夢のまた夢
15. 1・2・3(After the Rain)
16. ラクガキサマ(After the Rain)
17. 桜花ニ月夜ト袖シグレ(After the Rain)
18. 水彩銀河のクロニクル
19. 君のくれたアステリズム
20. 夜空のクレヨン
EN1. すーぱーぬこになれんかった
EN2. 女の子になりたい
EN3. 眠れる森のシンデレラ
■『ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2022@東京ドーム~「裏』
2022年6月11日(土)東京・東京ドーム
<セットリスト>
01. サクリファイス
02. 自壊プログラム
03. 立ち入り禁止
04. エグゼキューション
05. 悔やむと書いてミライ
06. 空腹
07. 夢のまた夢
08. ひともどき
09. 栞
10. ジグソーパズル
11. ハローディストピア
12. デジャヴ
13. フューリー
14. 忍びのすゝめ
15. イカサマダンス
16. ブレス
17. 神様の遺伝子
18. 暗い微睡みの呼ぶ方へ
19. 命に嫌われている。
EN1. すーぱーぬこになれんかった
EN2. 女の子になりたい
EN3. CQCQ(カバー)
EN4. 輪廻転生
まふまふ OFFICIAL WEBSITE
http://uni-mafumafu.jp/