THIS IS JAPANのメジャー3rdシングル「トワイライト・ファズ」が素晴らしい。特に表題曲はTVアニメ「BORUTO-ボルト– NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディング・テーマになっており、突き抜けた歌メロの高揚感とエッジ鋭い演奏が拮抗した彼らならではのサウンドに仕上がっている。また、カップリングの「KARAGARA feat.セントチヒロ・チッチ(BiSH)」、「METAL-MAN」の2曲も強力で、今作は聴けばTHIS IS JAPANとは何者か?が明確にわかる内容と言っていい。メンバー4人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 荒金良介
PHOTO BY 大橋祐希
■THIS IS JAPANがどういうバンドなのか伝えられたらいいなと
──今作はめちゃくちゃかっこ良かったです!
杉森ジャック(以下、杉森):ありがとうございます。
──THIS IS JAPANが持つポップ性とオルタナ・ロックのヘヴィさ。その両要素が凝縮された一枚になりましたね。
杉森:そうですね。「トワイライト・ファズ」はメロディックな曲ですけど、「KARAGARA feat.セントチヒロ・チッチ(BiSH)」、「METAL-MAN」が入ることで、THIS IS JAPANがどういうバンドなのか伝えられたらいいなと。特に「METAL-MAN」を入れられたことは大きいんじゃないかと。
──「METAL-MAN」はkoyabinさん作曲ですよね?
koyabin:60曲ぐらいデモを作って、その中の1曲だったんですよ。ロックらしい曲ができたなと。だいたい、僕はリフ始まりで作ることが多いので、リフ中心の曲になりました。ド頭はレニー・クラビッツみたいな雰囲気も出ているかなと。
──いわゆるザ・ロックみたいなアプローチですよね。しかし、「METAL-MAN」という曲名も凄いですよね。
杉森:ダサイですよね(笑)?ダサイ、かっこいいで言うと、今はダサイのがかっこいいじゃんって思えるようになって。これは3年前に作った曲なんですけど、ダサくてダメかもなーと当時は思っていたのに、久々に聴いたらダサくていいじゃん!って。
──それで今作のタイミングで急浮上してきたと。
koyabin:「I’m METAL-MAN」だもんね(笑)。
杉森:俺の考えるいわゆるステレオタイプなハードロック、メタルのイメージというか、偏見からできた曲ですね。
──AC/DCあたりですか?
杉森:ああ、時代的にはまさにそうですね。3曲目でめちゃくちゃふざけたくなったんですよ。我々も紆余曲折あったし、それは今も解決していないんだけど、据え置きでOKみたいな気持ちになれたんです。だから、当時の問題作も大きな心で包み込めるようになったと言うか。
koyabin:シンプルに自信がついてきたのかなと。
杉森:いろんなことを考えたり、こうあるべきみたいなことも考えたけど、もういいんじゃないかと。そこにいる自分たちを全面に出すことが大事だなと。
かわむら:もう恥ずかしいものはないからね。
──水元さんもそこは同じですか?
水元太郎(以下、水元):まったく同じです!みんなが思っていることは僕も思っていることだから。
──表題曲の話に移りたいんですが、「トワイライト・ファズ」はTVアニメ『BORUTO-ボルト– NARUTO NEXT GENERATIONS』のエンディング曲です。これはもともとあった曲から出したのか、あるいは、依頼を受けてゼロから作り始めたんですか?
杉森:もともと7割ぐらいは出来上がっていて、もうちょっとだなと思って、保留にしていたんですよ。で、『BORUTO-ボルト-』の話があり、もう一度曲に向き合ってみようと。
──『BORUTO-ボルト-』のどこを切り取ろうと?
杉森:僕らはNARUTO世代だし、『BORUTO-ボルト-』を改めて観たときに想像したんですけど、仮にボルトといつか出会ったとき、「俺には音楽があり、ライヴハウスがあり、試行錯誤、紆余曲折の末に、バンドがあること自体が最高じゃん!」って今ならボルトに胸を張って話せるんじゃないかと。現在ここにいることを肯定してもいいんじゃないか、バンドはそれでいいんじゃないかと。
■今ここにいることを大切にしたい
──そういう心境になると、出てくる音も違いますか?
杉森:未来のことを考えてしまったり、過去にとらわれることもあったけど、そうじゃないんじゃないかと。極論、明日亡くなるかもしれないから、今ここにいることを大切にしたい。そういう気持ちで一曲一曲に向き合うと、どんな曲も愛おしく思えるし、失敗したライブでさえも愛おしく感じるんですよね。一言で言えば、めっちゃ前向きになりました。
──そのポジティヴな気持ちが「トワイライト・ファズ」には反映されているんですね。
杉森:そうですね。自分の肯定感をポップなメロディに乗せて歌うと、こんなに気持ちがいいんだなと。
──それがこの曲の突き抜けっぷりにつながっているんでしょうね。演奏に関してはいかがですか?
杉森:「トワイライト・ファズ」と言ってるくらいだから、いろんなファズを試しました。歌メロに寄り添う選択肢もあったけど、自分のギターは歌メロとぶつかるくらいの破壊力があるものにしたかったんですよ。その方が自分の心情を表せるかなと。
かわむら:メインは歌だと思うので、そう考えると、リズム隊はそれを支えるシンプルなものがいいかなと。
水元:底を支える感じと言うか。
かわむら:そうそう。フレーズというより、歌やギターを後押しして、我々はしっかり支える役割に徹しようと。
koyabin:僕はこの曲でほぼギターを弾いてなくて。今までだったら、曲の中でどう自分を表現しようかと考えていたんですよ。でもこの曲では歌をいちばんに伝えたいから、自分は主張しなくていいのかなと。そういう風に考えられるようになった曲ですね。
──とはいえ、歌を追いかけても、演奏を追いかけても、聴き応えの楽曲に仕上がっています。
かわむら:杉森以外の演奏パートはシンプルだからこそ、ライブでもしっかりと太く出るような音選びをしてますからね。
杉森:ヘンなことをやらなくても、自分の個性を出せる自信が付いたんだと思います。
■夕暮れどきの、何か叫び出したくなる高揚感、焦燥感を表現
──曲の後半に合唱コーラスが入り、アウトロはノイジーかつカオティックな演奏で締め括る流れも最高だなと。
杉森:ただ、この曲ではそれほどTHIS IS JAPANらしさは意識してなくて。「トワイライト・ファズ」なので、夕暮れどきの、何か叫び出したくなる高揚感、焦燥感を表現したかったんです。あそこでファズを踏んだらどうなるんだろうと思い、ああいう感じになりました(笑)。
かわむら:杉森が作る曲はだいたいファズを踏んでいるから。それを言われているんでしょ?杉森が夕暮れを思い浮かべようが、最後はファズを踏んでいるから。
杉森:たしかにそうだわ(笑)。でもこの曲はものすごい踏んだ。以前は曲に引っ張られるように踏んでいたんだけど、これは自分の心からファズを踏んだ感じっす。
──はははは、なるほど。“今この足で踏み込んだ、ここが出発点”という歌詞があります。これからも日常を続くけれど、毎日そういう気持ちで過ごせたらいいんじゃないか。つまり、今を生きるということだと思うんですが。
杉森:こういう言葉はありふれていて、今までは実感がなかったんですけど。この頃はリアルな感じでそう思えるようになったんですよ。
──それはなぜですか?
杉森:コロナでツアーが飛んでしまうこともあったし、バンドをやるうえでどうなるんだろ?と思う瞬間もあったから。ここ2年は誰もが自分と向き合うことを余儀なくされることが多かったと思うんです。悪く言えば諦めがついたし、良く言えば開き直れたのかなと。
──あと、“目的地なんて消し去って”と歌詞にありますけど、ある種、腹を括ったような言い回しだなと。
杉森:何か目的や目標を持ってバンドを始めたというよりも、この4人で音を出して、自分たちの居場所が増えていく。それ自体が最初にやりたかったことですからね。純粋にただバンドをやりたかったんですよ。それを思い出せたことはこの曲の原動力になりましたね。
かわむら:バンドやろうぜ、というだけだったからね。周りに関係者ができるとは思わなかったし。楽しくやれたらいい、というところから始まっているから。もともとが一個一個のライブを大切にするバンドですからね。
──今作には「トワイライト・ファズ TV size」も収録されていますよね?
杉森:『BORUTO-ボルト-』の映像が自分たちの歌と合わさると、こういう風に解釈してもらえるんだなと。いい意味で自分たちの曲が自分たちの曲でなくなるような感じはありました。
かわむら:あと、思ったのはこんなに長く流してもらえるんだなと。(尺が)短くなることはアーティストによってはいろんな感情があるだろうけど、今回の映像を観ると、喜びしかなくて。
水元:ここで切られるのかなと思ったら、切れないからね。
──ちなみに「トワイライト・ファズ」はすでにライブでも披露しているんですか?
杉森:やってますよ。反応もいいですね。ライブで曲を演奏してから、レコーディングするパターンは結構ありましたけど、曲が世の中に浸透してから、いざライブでやってみると、ちゃんと後ろのほうまで届いている感じがありました。あと、ライブで演奏すると、自分たちが思った以上にすごく楽しくて。
──へー!
杉森:この曲は、歌中心だと思いつつ、演奏も腰を入れないとダメだなと思うポイントもあって。それはライブでわかったことですね。
──そして、「KARAGARA feat.セントチヒロ・チッチ(BiSH)」はチッチさんを想定して作ったんですか?
杉森:そうですね。サビとオケは俺が作って、それからかわむらに渡して、残りの歌メロとサビを少し直して、やってみたらいいかもねって。
■尖り散らかした部分を出したら、チッチさんと面白いことができる
──この曲は型にハマらない衝動感が出てますよね。
杉森:そうですね。チッチさんをお迎えできるかも、となったときに、じゃあ、自分たちの一番ええところを魅せなきゃいけないなと。THIS IS JAPANじゃないとできないことをやろうと。
かわむら:ポップ、キャッチーとか、そういう観点で言うと、チッチさんほうが我々よりも千倍ぐらいパワーがあるんですよ。立ってきた規模もそうだし…そこに我々も負けたくないから。チッチさんはそのパワーを持っていながら、我々のことを対等に見てくれているところもあるし。我々の尖り散らかした部分を出したら、チッチさんと面白いことができるかなと。
koyabin:いい意味でお互いに合わせにいってないんですよ。そのほうがいい形になるだろうという予感があったから。
かわむら:うん、遠慮なしにね。
水元:もうひとつ別に曲があって、そっちも良かったんですけどね(笑)。結果、一風変わった曲だけど、かっこ良くできたから。今はしっくりきてます。チッチさんの声が入ったときに完璧だなと思いましたからね。これでイケるだろうと。
■理路整然とした部分と、ガチャガチャした部分が渾然一体
──THIS IS JAPANのいちばんの武器というと?
かわむら:我々は本当の意味で泥まみれな人間ではないし、本当に狂っている人間でもないけど、だからこそ、本物に対する鬱屈した感情や憧れみたいなものがあるんです。それを爆発させたい気持ちは負けないんじゃないかと。
杉森:たしかに。真の意味でめちゃくちゃなわけじゃないけど、奇想天外な組み合わせになってるみたいな。理路整然とした部分と、ガチャガチャした部分が渾然一体となっている。そこは自分たちにしかできない部分かなと。
──今作の中でも自由度は高いですよね。
かわむら:言葉もある意味、洗練させないように、あるがままの荒々しい言葉ですからね。
──“愛と勇気とポップコーン片手に”の歌詞は遊び心がありますよね。
かわむら:これはTHIS IS JAPANの初期の初期の曲から引っ張ってきたんですよ。だから、この曲で思いついた言葉ではないんです。それを持って来れたのはうれしかったですね。バンドを始めた頃の曲は未熟なことも多いし、今だったら思いつかない言葉もありますからね。今だったら、それも恥ずかしがらずに言えるんじゃないかと。
──過去の自分たちも肯定して?
かわむら:そうですね。昔は昔でいいものを持っていたぜって。
杉森:からの、もう一回チャンスあります、みたいな。何回失敗しても、別にたいしたことじぇねえなと。そういう前向きさがあっていいなと。歌っていても気持ちいいですね。
──杉森さん、チッチさんのツイン・ボーカルで攻めているところはミクスチャーロックっぽい雰囲気も感じました。
杉森:トラックを作っているときはポスト・ハードコア的な感じでカッティングがあり、8ビートがありみたいな。そこにかわらむらがラップみたいなアイデアを入れてきて、それも面白いなと。
koyabin:この曲は何も考えずに、こうしたら気持ちいいだろう、こっちの方がいいはず、という形で漠然と演奏したかもしれないです。
水元:koyabinも言うように、あまり考えずに持っているものを出したら、しっくりハマったという。それがうまくいったと思います。
かわむら:オケだけを聴くと、Gang of Fourみたいだから。歌でキャッチーにはなっているけど、水元もkoyabinもギャリギャリの音で、間違いなく歌ものではないという。
──不思議なバランス感覚で成り立っていると。
水元:結構、そういう曲が多いですね、THIS IS JAPANは。
かわらむ:歌はポップ でありたいけど、サウンドはよりタイトでより尖っていたほうがかっこいいという価値観があるから。今回の3曲はその配分が面白いくらい変わっているんじゃないかと。
──ええ。それと、「トライライト・ファズ」のリミックスがまた素晴らしくて。これはオケを変えてますよね。原曲が持つ歌メロの良さがさらに際立ってます。
杉森:センチメンタルな夕暮れが見えてきますよね。
かわむら:完全に信頼し切って、こちらからは何も言わなかったですからね。
水元:前回もリミックスをお願いしたんですけど、他の人が自分たちの曲をリミックスすると、こんなに変わるんだなと。で、今回もこの曲はこんなところもあるんだ!って、気づかせてもらえましたからね。
koyabin:自分たちはバンドサウンドでやってきたので、闘ってきたフィールドは違うし、同じ曲を作り替えるのは面白いなと。そもそも僕らはこのBPMの曲はひとつもないですからね。
杉森:たしかに。
koyabin:すごく新鮮でしたね。
──このリミックスを聴くと、いつかTHIS IS JAPANで思いっきりバラードしているオリジナル曲も聴きたくなりました。
杉森:おっ!バラードの神がいずれ降りてくるタイミングがあれば作りたいですけど、今のところ降りてくる気配はないですね(笑)。
かわむら:甘美なメロディにファズを踏む曲はできるかもしれませんけどね。
杉森:そうだね。ラブ・ファズ・バラードみたいな。でもめちゃくちゃうるさいと思いますよ(笑)。
リリース情報
2022.05.25 ON SALE
SINGLE「トワイライト・ファズ」
ライブ情報
THIS IS JAPAN pre. “4COUNT”
6/19(日) 下北沢 SHELTER(w/aoni、pavilion)
7/10(日) LIVE HOUSE FEVER(ワンマン)
プロフィール
THIS IS JAPAN
ディスイズジャパン/杉森ジャック(Vo/Gu)、かわむら(Dr/Cho)、koyabin(Gu/Vo)、水元太郎(B/Cho)の四人からなる東京発ロックバンド。2011年に結成し、新宿、下北沢のライブハウスを中心に活動を重ね、2020年2月に1st Digital single「Not Youth But You」でメジャーデビュー。2021年8月には2nd CD single「ボダレス」(アニメ「SDガンダムワールド ヒーローズ」2期オープニングテーマ)リリース。現在も破壊力のあるライヴパフォーマンスを武器に活躍の場を広げている。
THIS IS JAPAN OFFICIAL SITE
https://thisisjapan.net