TEXT BY 森 朋之
高い評価の裏で迷う日々。そして次のビジョンへ
清水翔太が9thアルバム『HOPE』をリリースした。
前作『WHITE』から約3年ぶりとなる本作には、“もう君を愛せないんだ/もう君に愛してもらえないんだ”と切なく歌い上げる失恋ソング「恋唄」、Taka(ONE OK ROCK / Vo)とのコラボレーション楽曲「Curtain Call feat. Taka」、Aimerをフィーチャーした「プロローグ feat.Aimer」、SNSでコラボ相手を募集した 「Lazy feat.ASOBOiSM, Kouichi Arakawa」などを収録。
このコラムでは「Curtain Call feat. Taka」を軸にして本作の魅力を紐解いてみたい。
6thアルバム『PROUD』(2016年)、7thアルバム『FLY』(2017年)、8thアルバム『WHITE』(2018年)という3作を通して、現在進行形のUSヒップホップ~R&Bに接近し、日本の音楽シーンにあらたなトレンドを提示した、清水翔太。
この3作はコアな音楽ファンや多くのアーティストに高く評価されたが、彼自身はこの先の方向性についてかなり迷っていたという。
そのネガティブなサイクルに終止符を打ったのが、前作ミニアルバム『period』。この作品を生み出したことで、清水は次のビジョンに向かって進み始めた。
その起点のひとつになったのが、「Curtain Call feat. Taka」である。
逆境に光を灯した、[ re: ] project
清水翔太、Takaのコラボレーションが実現したきっかけは、彼らを中心にはじまった[ re: ] projectだ。
「こんな時代だからこそ、同じ世代のアーティストが集まることで何かできないか?」という呼びかけに、阿部真央、絢香、Aimer、KENTA (WANIMA)、 Nissy (西島隆弘) 、三浦大知が賛同して生まれた[ re: ] は、2020年6月に「もう一度」を発表。
“手を取り合って、みんなで前を向いて歩いて行こう”というメッセージが込められたこの曲は、YouTubeの再生回数3,500万回を突破。コロナ禍で生まれた名曲として幅広い層の支持を得ている。
根底にあるのは、この先の未来にあるはずの“希望”だ。
清水翔太のリアルな感情や思いが反映された「Curtain Call feat. Taka」
「Curtain Call feat. Taka」もまた、希望をテーマにしている。作詞・作曲・編曲は清水翔太。つまり、この曲は清水自身のリアルな感情や思いが反映されていると言っていいだろう。
ギターによるリフ、生音感を重視したトラックとともに描写されるのは、“僕は居るべき場所にいない気がする”という疑問と不安だ。
アーティストに限らず、人は誰でも“こうなりたい”“あの場所にいきたい”という思いを抱えながら生活しているはず。
しかし、現実と理想の挟間のなかで、自分の立ち位置に満足できなかったり、“こんなはずじゃなかった”という憤りを覚えることも多いだろう。翔太はそんな状況から目を逸らすことなく、それでも前に進む決意を歌い上げる。
そのことを端的に示しているのが“迷う日もある/落ちる日もある/それでもいつか/輝く日まで”という最後のラインだ。
彼らの歩みが説得力となり、我々を鼓舞し、前に進む力を与えてくれる
「Curtain Call feat. Taka」がこれほどまでに強い説得力を備えている理由…それはこの歌が、翔太、Takaが辿ってきた軌跡と重なっているからだろう。
現在では音楽シーンのなかで確固たるポジションと幅広いファンダムを獲得しているが、ここまでに至る道のりは決して順風満帆ではなかった。“こんなはずじゃない”“ここじゃない”という悔しさを抱えながら歩んできた彼らだからこそ、この楽曲は生々しいメッセージを放つことができるのだと思う。そして、「Curtain Call feat. Taka」が持つ前向きなパワーは、コロナ禍で先が見えない社会を生きる我々を鼓舞し、前に進む力を与えてくれるはずだ。
ポジティブな駆動こそが、『HOPE』最大の魅力
「Curtain Call feat. Taka」のほかにも、臆病になりながらも新しい恋の始まりに踏み出す瞬間を繊細に歌った「プロローグfeat.Aimer」、気の置けない友達との関係を映し出した「Homie」、シティポップ的なサウンドと東京の夜景が交差する「Tokyo Night」など、色とりどりの楽曲が揃ったアルバム『HOPE』。
すべてに共通しているのは、やはり“希望”だろう。“この状況が落ち着いたら、これをやって、あれもやって”という未来への思いこそが、現在を生きるモチベーションに繋がる──そんなポジティブな駆動こそが、このアルバムの最大の魅力なのだと思う。
また“HOPE”というタイトルは、清水翔太のこの先のキャリアを照らしているようにも感じる。
様々なトライを繰り返しながら、音楽的なクオリティと幅広いポピュラリティを両立させてきた、清水翔太。アルバム『HOPE』を創り出したことで、彼は次のステージに向かって進むことになりそうだ。
リリース情報
2021.07.21 ON SALE
ALBUM『HOPE』
清水翔太 OFFICIAL SITE
https://www.shimizushota.com/