TEXT BY 永堀アツオ
ヒロアカ劇場版第3作目の主題歌として書き下ろされた「エンパシー」
バンド結成25周年を迎えた、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが前作「ダイアローグ／触れたい 確かめたい」から約10ヵ月ぶりとなる通算28枚目のシングル「エンパシー」をリリースした。
「エンパシー」ジャケット
「エンパシー」は、現在第5期が放送中のTVアニメ劇場版『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の主題歌として書き下ろされ、作詞作曲を手がけた後藤正文（Vo、Gu）は以下のとおりコメントしている。
【後藤正文（Vo、Gu）コメント（原文ママ）】
『みんなちがってみんないい』みたいな言葉はとても美しいけれど、自分の個性についての悩みは尽きないですよね。デクたちの成長を見ると、ヒーローたちにもそれぞれの悩みがあるんだなって思います。ヴィランとだけじゃなくて、それぞれ自分と戦っている。そんな彼らの姿に勇気をもらいながら、主題歌を書きました。素敵な映画に参加できて光栄です。
ここで少しだけ原作コミックの説明をすると、「僕のヒーローアカデミア」の舞台は全人口の8割が“個性”と呼ばれる超常能力を持つ世界。
“個性”を悪用する敵であるヴィランを取り締まり、災害からも守るプロフェッショナルなヒーローが憧れの存在となっており、“無個性”として生まれた主人公のデクが、平和の象徴と謳われるNo.１ヒーロー・オールマイトから“個性”を受け継ぎ、最高のヒーローになるまでの物語である。
同情するのではなく、相手の気持ちを理解するから“エンパシー”
後藤はそんなヒーローそれぞれの悩みに自分たちと似ているものを感じ、その感情をシンパシーではなく、“エンパシー”と名づけている。
日本語では、どちらも“共感”と訳されることが多いが、シンパシーには同情寄りのニュアンスが含まれているが、エンパシーにはネガティブな意味合いが含まれていない。
ここでは、ヒーローたちの個性に対する悩みに同情するのではなく、相手の立場になって“相手の気持ちを理解する”という意味でエンパシーという言葉が使われているのだろう。
楽曲の中では、“ひとり抱えた言葉”や“ひとりこぼした涙”に加え、“憐みも悲しみも煎じ詰めればエンパシー”であると歌われており、出自や肌、目の色といった違いを飛び越えて、“ただ認め合うような将来を夢見て”というフレーズに繋げられている。
生まれ持った個性に思い悩むことなく、他人とも比べることをせずに、ありのままの自分自身で、自由に生きればいんだよというエールに加えて、それぞれがそれぞれのままで認め合い、“個”と“個”のままで繋がり合うことのできる世界を夢見ている姿勢も含まれている。
MV「エンパシー」を通じて、感じたこと
では、世間の常識や流行に流されずに、ありのままの自分でいるためにはどうしたらいいのか？
その答えのひとつは「エンパシー」のMVで示されている。映像は、野間口徹演じる父親が運転する車で、海や山に囲まれた実家に帰るドラマパートから始まる。
息子役の神尾楓珠は金縁の丸眼鏡をかけており、耳にはワイヤレスヘッドフォンが刺さっている。父親の息子時代の部屋の窓には、後藤のルーツであるティーンエイジ・ファンクラブ『バンドワゴネスク』とウィーザーの青ジャケが張られており、オアシスの1stアルバムのポスターも見える。
やがて、息子は父親が聴いていたであろうウィーザー『ピンカートン』のCDを手にし、ギブソン・マローダーを見つける。
ここで場面は切り替わり、大きなガラス越しに自然に囲まれたていることがわかる音楽スタジオに。そこで、後藤は物思いに耽りながら、自身のマローダーを手にする（野間口のマローダーにはアジカンのステッカーだけ貼られていない）。
ここからは想像だが…ドラマパートは、大学卒業後に社会人と並行してバンド活動を行っていた後藤が、会社ではなく、バンドをやめた別の未来なのかもしれない。
ロックスターとなった後藤と、平凡なサラリーマンになった後藤。彼の目線は、そのどちらも受け入れている。そして、息子は父親が弦を張り替えてくれたエレキギターを車に積んで持ち帰っている。
オールマイトから“個性”を受け継いだデグのエピソードとも重なってグッとくるが、自分の人生（ルーツや実家）を振り返りながらも、今ある生活を見つめ直すことで、いつの間にか“ありのままの自分自身”は立ち現れていると思う。
その頃にはきっと、後藤の“君の名前を”と呼ぶ声が胸に響き、目の前が少しだけ明るくなっているはずだ。
リリース情報
2021.08.04 ON SALE
SINGLE「エンパシー」
2021.08.04 ON SALE
ミュージックビデオ集『映像作品集17巻』
ASIAN KUNG-FU GENERATION OFFICIAL SITE
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