TEXT BY 森朋之
■すべての音に固有性と説得力があり、この3人でしか生まれない音像へと繋がる
『THE FIRST TAKE』第208回には、羊文学が初登場。オルタナティブ、シューゲイザーの潮流を感じさせるバンドサウンド、生々しい感情と文学的な描写が交差する歌詞によって注目度を高めている3ピースバンドだ。
塩塚モエカ(Vo, Gt)、河西ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)による羊文学は、2020年にメジャーデビュー。美しさと鋭さを併せ持ったギターサウンド、シンプルにして骨太なリズムセクション、そして、儚さ、凛とした強さを同時に感じさせてくれるボーカルが、このバンドの魅力だ。
2020年12月に発表した1stアルバム『POWERS』が音楽メディアや音楽ライターの間で高い評価を獲得。塩塚がASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲「触れたい 確かめたい」にゲストボーカルとして参加するなど、活動の幅も徐々に広げている。
個人的に印象に残っているのは、昨年夏の『FUJI ROCK FESTIVAL’21』。レッドマーキーのステージに登場した3人は、“鋭利な透明感”と呼ぶべきバンドサウンドを響かせ、満員のオーディエンス(おそらく初めて羊文学のライブを観る人が多かったはず)を強く惹きつけたのだった。
その後も「マヨイガ」(アニメ映画『岬のマヨイガ』主題歌)、「光るとき」(TVアニメ『平家物語』オープニングテーマ)と話題曲を次々と発表。映像作品とのコラボレーションによってさらに知名度を上げると同時に、その音楽性を深めてきた。
今回の『THE FIRST TAKE』の出演は、3人が生み出す独創的な音楽世界をさらに多くのリスナーに広める、絶好の機会になったはずだ。演奏されたのは「あいまいでいいよ」(ひかりTVオリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』主題歌)。アルバム『POWERS』に収録された楽曲だ。
今回の出演に際して3人は「『あいまいでいいよ』は、若者たちのラブソングなので春にすごくぴったりだと思います。羊文学をまだ知らない方も沢山いると思いますが、皆さんの毎日をちょっとでもカラフルにできたらと思って音楽をやっているので良かったら聞いてみてください」とコメント。その言葉どおり、切なくも愛らしい恋愛の情景を描き、日常に彩りを加えるような素晴らしい演奏を披露した。
最初に映し出されるのは、ギター(フェンダー“Jaguar”)をチューニングする塩塚の姿。水のペットボトルを片手に「いる?」「よし、いきますか」と穏やかにメンバーに語りかけ、フクダのカウントから演奏が始まった。
コードを響かせ、心地よいビートとともに“恋人たちは今もまだ/お互いの気も知らないで”というフレーズが聴こえてきた瞬間、強く引き込まれる(筆者は最初の10数秒で“うわ、カッコいい”と呟いてしまった)。
シンプルな8ビートでバンド全体をドライブさせるドラム、パワーコードとアルペジオを織り交ぜたギター、ルート音を刻みながら楽曲のボトムを支えるベース。アレンジはいたってシンプルだが、すべての音に固有性と説得力があり、この3人でしか生まれない音像へと繋がる。“バンドマジック”という言葉が頭をよぎる。
“あいまいでいいよ/本当のことは後回しで/忘れちゃおうよ”から始まるサビの開放感も最高に気持ちいい。少し歪みがかかった塩塚の歌声は、楽曲の後半に向かうにつれて強さを増し、モラトリアムな恋愛感情を映し出す歌詞に輪郭を与える。リラックスした笑顔とシャープなボーカルのコントラストも印象的だった。
プレミア公開後には「羊文学の音楽に救われてます…だいすきです」「繊細で消えちゃいそうな音楽だけど、たくましくてエネルギーがある音楽でもあって、私の青春です」といったファンのコメントとともに、「バンド名はよく聞くけど、初めて曲を聴きました。透明感がすごい」「『1999』しか知らなかったけど、この曲も素敵!好きです!他の曲も聴いてみます」といった声も上がっていて、羊文学の鮮烈な演奏は、数多くの音楽ファンの心を捉えたようだ。
4月20日にはメジャー2ndフルアルバム『our hope』をリリースする羊文学。5月29日からは5大都市のZepp公演を含む初の全国ツアー『羊文学 TOUR 2022“OOPARTAS”』も開催する。2022年は間違いなく、3人にとって大きな飛躍の年になる。今回の「あいまいでいいよ」を観れば、誰もがそう確信するはずだ。
リリース情報
2022.04.20 ON SALE
ALBUM『our hope』
YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
https://www.youtube.com/channel/UC9zY_E8mcAo_Oq772LEZq8Q
羊文学オフィシャルサイト
https://www.hitsujibungaku.info/